Studio vetix

第九回「いつでも練習できてるかな?」

みなさんこんにちは!
名古屋の音楽リハーサルスタジオ「Studio VETIX」の河本です。
前回までは少し難しいお話をさせていただきましたが、第9回となる今回は、原点に立ち返って「すぐに役立つ練習方法の小技」をいくつかをご紹介したいと思います。

第9回「いつでも練習できてるかな?」

いつもベティックスに通ってくれているお客さんから訊ねられました。
「ボーカルが気軽にいつでもできる練習って何が有りますか?」

話を聞いてみると、どうやら壁の薄いマンションで一人暮らしのため、
「大きな声を出して」練習ができない。とのこと。
「鼻歌くらいなら歌えるんですが・・・。」と悲しそうな顔をしていました。

きっと、みなさんの中にも同じような思いをしている方は大勢いるのではないでしょうか?
マンションだから、という理由でなくても、実家ぐらしで家族に「うるさい」と言われる。
とか、ライフスタイルが深夜帰宅なので大きな音は出せない。なんてひともいると思いますし、それはボーカルに限らずドラム、ギター、ベース…すべての楽器に言えるかもしれません。

スタジオを経営している側から言えば、日本のこういった住宅事情のおかげでスタジオ利用者がいるわけなので余り大声でひどい話だ!なんてことは言えませんが(^_^;) やはり、悩みの種ですよね。

そこで今回は、家で(なるべく)静かにできる練習法をいくつかご紹介したいと思います。

【静かに練習する方法】
まず、「なるべく静かに練習する方法」として、冒頭でご紹介したお客さんにしたアドバイスを、ここでもご紹介します。

「ボーカルが家でできる練習」といえば、ボイストレーニングに通った経験のある方であれば「呼吸法」の練習がすぐに思い浮かぶのではないでしょうか?
しかし、いきなり「呼吸法を練習してみては?」などと助言しても、どのようにやればいいかわからないでしょう。
そもそも、呼吸法はトレーナーにしっかりと教えてもらわないと、間違った方式で無意味な呼吸を繰り返すだけ・・・なんてことにもなりかねません。
本で読んだやり方をうまく真似ることができても、それが正解のやり方か不正解のやり方かは、やはりプロの目でジャッジしてもらわないと自信を持ってできないですよね。

そこで、もっとシンプルに。
こんな練習をしてみてはいかがでしょうか。

それは・・・。
「鼻歌をうたう」です!
冒頭でご紹介したお客さんも、大きな声は出せないが鼻歌なら出せるとのことでしたが、「鼻歌をうたう」のも、以下の2点を意識するだけで立派なトレーニングになるのです。

・高いキーの曲もキーを下げずにうたってみる
→普段は出せないキーの曲でも、鼻歌だと不思議と出すことができますよね?せっかくなので、鼻歌を唄うときは普段出せない高いキーで歌ってみましょう。ピッチを安定させたり、ファルセットのトレーニング、鼻の響きを作るエクササイズとして有用です。「ハミングトレーニング」なんて名前も付いているくらいです。鼻腔周辺の筋肉がストレッチされて、高音域が広くなる効果もあると言われています。

・鼻歌をうたう際にクリックを聞く
→鼻歌を唄う際にはクリックを聞きながらやりましょう。もちろん、大きな音を出さなくてもOK。スマホからイヤホンでクリックを聞くのも良しです。リズムトレーニングは、大きな音を出さなくてもできる重要なトレーニングの一つです。この際、当コラムの第五回でご紹介したように、「倍のテンポ」で練習をすると効果的にできます。

このように、音が出せない環境でも、やり方次第では充分にトレーニングができるものなのです。

【ボーカル以外も!】
もちろん、ボーカル以外のパートや、演奏面以外でも、工夫次第で様々な練習ができます。
ちなみに、以下に紹介するいずれの練習でも、「ボーカル鼻歌トレーニング」で紹介した「(倍のテンポで)クリックを聞きながら」という手法は有効です。ぜひ、取り入れてみてください。

まず、例えば、ドラムの練習。
ドラマーは、音が出せない時も、「エアドラム」をしてみましょう。
そこにドラムセットが有るかのように、です。
ギターで言う「運指」のように、どうすれば最も適切にスティックを運べるか?や、スティックの振りや角度手首のスナップの使い方、肩の位置など・・・をイメージトレーニングすることが大事です。

ギターも、「エアギター」が、実はいいトレーニングになるんです。
もちろん、いわゆるエンターテイメント的な「エアギター」ではありません(笑
ギターがそこに有るように見せるのではなく、「どのように弾いたら良いか?を辿るエアトレーニング」です。
左手の運指は中々イメージしづらいかもしれませんが、右手のカッティングなどは、「エアギター」でもトレーニングになります。行う際は、しっかりと手首を見てアップダウンをさせるイメージを持って、トレーニングしてみてください。手首の返しなどが思いの外ばらついていることが認識できたり、いくつも発見があるとおもいます。

ベースは、指弾きの練習を「エア」で行ってみると良いと思います。
机などに指を当て、「指弾き」をするのです。この際、NGなのは第一関節や第二関節が反って「机をなでる」ようになること。しっかりと弦を引っ掛けに行くイメージで、(ちょうど、机上を指でムーンウォークしているかのように、)指を緩く鉤爪状に保ったまま行うのがコツです。

ちなみに、パフォーマンスのイメージトレーニングをする際には、姿勢・目線を意識して欲しいですね^^
イメージは常に大きく!いま立っているステージよりも一周りも二回りも大きなステージに立っている自分を想像して行って下さい。すると目線は遠くに・・・姿勢も大きくなります。どうせ本番では大なり小なり緊張して小さくなってしまうのですから、イメージトレーニングの段階で大きく想像して演奏して下さいね!

【演奏以外にも、静かな練習】

楽器の演奏以外でも、「静かにできる練習」というものはあります。
例えば、ボーカリストですと、「マイキング」の練習です。
みなさんは自分の部屋に鏡をお持ちでしょうか?
お持ちの方はぜひ鏡の前で自分のマイキングを確認してみましょう。とくに、ライブでハンドマイクで唄う人は必ずやってみて欲しいです!

少しお話はそれますが、ボーカリストにおける「楽器」といえばマイクですが、その楽器の使い方に関しておざなりにしているボーカリストの多いこと!エンジニアとしては少しさみしかったりします。(^_^;)
マイクには様々な「指向性」という性質があり、端的に言えば「マイクの向いている方向で音のとれかたが変わる」というものです。これを理解して「使いこなす」ことが、魅力的な歌声を届けるひとつの手段なのです。

例えば、スタジオやライブハウスで一般的な「Shure 58」というタイプのマイクでは、「XLRケーブルの着脱スイッチが上を向いている状態」が、基本の状態となります。この状態が一番声が入ってくる(声がノる)状態なのです。(声質によっては真下にスイッチを向けるほうが「合う」場合もありますので、実際に色々試してみてください。)
指向性はマイクによって異なるので、マイ・マイクをお持ちの方は一度スタジオで様々なマイクの向きで歌ってみてください。
なんだか音がキンキンする。モワモワする。そんなときはマイクをくるくると回転させてみて下さい。そして自分の声が一番すっきり聞こえる向きが決まったら、次にその状態のまま自分の口に向けるマイクの角度を様々に試してみて「一番自分の声がノる状態」を見つけて下さい。
例えば、最近のアマチュアアーティストは口元を狙いすぎる傾向にある気がしています。
声を通すには、イメージとしては、上唇の真ん中にある凹み部分にマイクのセンターを向けて下さい。鼻音を使って唄う人は上唇にマイクのセンターがあたってしまうすれすれまでマイクを近づけるのも良いでしょう。
また、マイクと口との距離も重要です。ライブハウスやスタジオにおける一般的なマイクはダイナミックマイクといい、口元との距離に弱い(距離による影響が出やすい)マイクです。声量や声質により異なりますが、目安としては1cm程度の距離を離して歌うのが良いとされています。(大サビなど大きな声で歌うパートでは2cm程度)。テレビなどでマイクを遠くに離して歌っている歌手も見かけますが、それは高性能のコンデンサーマイク(距離にもある程度強い)であったり、そもそも声量や声の通りが違うからできることです(もしくは口パクか・・・)。
ですので、単純にその真似をしても、実際には「ただマイクに届く声が小さくなる」だけです。しっかりと距離を保てるように、鏡の前で普段から練習しておくことをおすすめします。(よく見かける「ヘッドを手で覆う」にしても一緒です。テレビ用の「見た目がいい」パフォーマンスと、「実際の演奏をよく聞かせる」パフォーマンスでは異なるのです。(このあたりはまた別の機会にお話します!)

話が少し技術的なものにそれてしまいました(^_^;)
練習方法に話題を戻しますと、、、。

まずは各自、スタジオなどでマイクを使って、本当にマイクの向きで「声」が変わるんだ!と実感してみてください。そして、向きや角度など様々にスタジオで工夫をしてみて、そこから自分にあった「マイキング」をみつけたら、それを忘れないようにスマホのカメラで写真に残したりして、それをお手本に家で鏡の前で練習してみましょう。
パフォーマンスをしてもマイクのセンターをしっかり自分の狙いたい位置に向けて保てているか。など、注意して見ているといかに「不安定なマイキング」をしてきていたか、わかると思います。
(マイクがない場合はスプレー缶やブラシ(僕は学生の頃やってました゛゛)などを手に持って代用しても大丈夫です。)

ハードなバンドサウンドの中ではあまり違いはわからず「まぁ、どっちでもいいか」なんて思えるかもしれませんが、PA側で聞く音やライン録音などでは、如実に違いが顕れてしまいます。
Voをよく「聞こえさせる」ためには、マイキングはかなり大切な要素なのです。
自室に鏡が有る方はぜひ練習をしてみてください。
(ちなみに、VETIXでは、実際にマイキングでどのくらい声が変わるのか?などに焦点を絞ったミニ講座【あなたに合ったマイキング講座】を企画準備しております。気になった方はお気軽にお問い合わせ下さい!^^)

【どこでも練習!】
いろいろと練習法のヒントをご紹介いたしましたが、「静かな練習」とはいえ、これらは「どこでもできる練習」ではありません。
教室の片隅で急にエアドラムをはじめたり、会社の更衣室で鏡を見てマイキングの練習はできないですよね(笑
ですので、最後に、「どこでもできるプチ練習」をご紹介したいと思います。
たとえるなら、エレベーターではなく階段を使うような「スキマ時間のプチダイエット」のみたいなものでしょうか!?

・リズムを取る!
→リズム隊はともかく、意外とボーカリストなどは疎かにしがちなリズム練習。せっかくなら、普段から意識していきましょう!やり方は簡単。街を歩いていて聞こえてくる音楽全て、「リズムをとって聞く」だけです。世の中には様々なリズムの曲があります。慣れてきたら先述の「倍のテンポ」で常に取っていくようにすると効果は抜群。「正直好きじゃないんだよね」なんて曲が流れているときも、「リズム用の教材」だと思って聞いてみると意外な発見もできて楽しいですよ!

・音楽を見つける!
→曲が流れているシーンなんてあまりないよ!なんて意見も聞きますが、そんなときは視点を変えてみてください。普段に生活をする中でも、音楽はあふれています。何気なく見ているテレビのCM。停車中の車から漏れる音。「音楽」ではなく、一定のリズムが感じられれば「練習」はできちゃいます。自分の歩く音、時計のカチカチ刻む音、心臓の鼓動でさえリズムです。自分の中に、リズムを感じる癖をつけていく。それもこの練習で目指したいところですね!

・クリエイトする!
→楽器がなくても、メロディをつける練習・・・なんてこともできます。たとえば、スーパーマーケットなんかでよくながれている「オルゴールのJPOP」。みなさんも一度は聞いたこと有りますよね?それが聞こえたら、頭のなかで「自分なりの歌メロ」を載せてみてください。もともとのメロディを知っていても、それにとらわれずに、歌メロを作ってみるのです。全く新しい「歌メロ」ができれば、それを自分の楽曲に取り入れてもいいとおもいます。
オルゴールではなく歌の入っている楽曲が有線などから流れてきたら「コーラスメロディ」を載せてみて、「自分なりのコーラス」を作る練習をしても良いでしょうこの際気をつけるのは、「既存のコーラスメロディ」をたどるのではなく、コーラスのついていないメロディ(主旋律)にコーラスを付けるということです。「コーラスを作る」というのは「基準となるメロディの◯度上下をうたう」
ということです。既存のコーラス部分をいくら覚えても、その場合コーラス自体が「主旋律」となってしまい、「コーラス作り」の練習にはなりません。
コーラスワークはバンドを進めていくうえでとても重要な要素ですが、見落とされがちな要素でも有ります。空いた時間にバンバン経験を積んでいきましょう。
メロディを知っている曲でも、いざコーラスしてみようとおもうと、なかなか思い通りに行かないものですので、街中で音楽を見つけたら積極的にコーラスづくりを試してみてください!

いかがでしたか!?
このように、音が出せない環境でも、様々な練習方法があるので、ぜひ試してみてください!

正直言って、今の状況から「あれ?うまくなった」ってなるくらいなら、日々の生活でプチ練習を心がけていれば上達できちゃうものなのです。
うまくならなければイメージのしかたがちがうので、ぜひ聞きに来て下さい。
僕で良ければアドバイスさせてもらいます^^

といったところで今回はこの辺で。
読んでいただいてありがとうございました。またお会いしましょう!

河本